マカオのカジノに行ったのは、最後の賭けに出る覚悟を決めたからだった。
大学生やけど、普通の子と違う。
バイナリーオプションに手を出して、気づけば借金の山。
あっという間に積み上がった数字は、返せるような額じゃなかった。
最初はちょっとした遊びのつもりやったんやけど、気づいたらドツボにはまってた。
だから、どうしてもお金が必要で、風俗で働くしかなかったんよ。
自分でも信じられん決断やったけど、逃げ場がなかった。
それで、風俗で働いたお金を少しずつ貯めて、ようやくまとまった額が手に入った。
そんな中、頭に浮かんだのがカジノやった。
バイオプの失敗でギャンブルはもうこりごりやと思ってたはずやけど、どうしても一発逆転を狙いたかったんよ。
これしかないって思い込んでたんかもしれん。
マカオなら、一攫千金も夢じゃない。
ネットでルーレットの攻略法を調べて、頭の中では完璧な作戦ができあがってた。
狙った数字だけやなく、その反対側にも賭ける方法。
これならどっちかには当たるはずやって。
マカオのカジノは豪華やった。
映画でしか見たことないような高級感。
入った瞬間、なんか別世界に迷い込んだみたいな感覚やった。
キラキラした照明に、カチャカチャと鳴るチップの音、華やかな服を着た人たちがテーブルの周りに集まってる。
目の前にはルーレットテーブルがあって、ウィールが回る音が響いてた。
賭け金を出す人たちの緊張感が空気に漂ってて、妙な興奮が体中を駆け巡った。
私はポケットの中でぎゅっとチップを握りしめて、ゆっくりとルーレットテーブルに近づいた。
心臓がドキドキしてたけど、今さら引き返すわけにはいかん。
ここまで来たんやから、もう賭けるしかない。
ディーラーは静かに微笑んで、私がチップを置くのを待ってる。
私は深呼吸して、作戦通りに賭けた。
狙った数字は「17」。
そして、その反対側にある「18」にも賭けた。
ルーレットはアメリカンウィル。
ウィール上では反対側にあってもテーブルレイアウトでは連なる数字。
この方法ならどっちかが当たる・・・そう信じてた。
ウィールが回り始めた瞬間、時間がゆっくり流れ出したように感じた。
ルーレットのウィールがカラカラと音を立てて回る。
ボールがウィールの上を跳ねながら、不規則な動きを繰り返してる。
手汗がひどくて、チップを握る手が滑りそうなくらいやった。
周りの人たちの視線も、何となく自分に向けられてる気がして、余計に緊張が高まった。
「お願い、お願い・・・」心の中で必死に祈った。
ここで勝たなきゃ、もう後がない。
借金返済どころか、生活すらどうなるかわからん。
風俗で働いて貯めたお金も、この瞬間に消えてしまうかもしれん。
私の人生が、この回転で決まるかのような緊張感に包まれてた。
ボールがウィールの上で跳ね続け、少しずつ減速していく。
目の前にいるディーラーの表情は変わらないまま、淡々としてる。
どこに落ちるんやろう???視線がボールに釘付けになって、息をするのも忘れてた。
そして、ボールが最終的に「15」に落ちた。
その瞬間、全てが崩れた。
私は「17」と「18」に賭けていたけど、ボールはそのどちらにも落ちなかった。
負けた、ただそれだけの事実が頭の中をぐるぐる回る。
ディーラーは静かに私のチップを回収していった。
何か言いたかったけど、言葉が出てこなかった。
負けたんや。
作戦は完璧やと思ってたのに、こんなにもあっさりと終わるなんて・・・。
周りのざわめきが急に遠く感じて、まるで自分がこの場にいないかのような気分になった。
これまでの努力が、一瞬で無駄になった気がした。
風俗で働いて稼いだお金を使ってまで、何をしてるんやろうって自分が情けなくなった。
周りのプレイヤーたちは誰も私のことなんか気にしていない。
彼らはただ、自分の勝負に集中しているだけやった。
カジノは冷たい場所や。
勝つ者には笑顔が向けられるけど、負ける者には何の感情もない。
ただ、ディーラーが淡々と次のゲームの準備を進めているのが虚しく見えた。
負けを認めた瞬間、心の中で何かがぷつんと切れた気がした。
これが現実なんや。
ギャンブルで一発逆転なんて、所詮は夢物語やったんやって。
それでも、私は最初からこうなる運命やったのかもしれん。
バイナリーオプションで借金を抱えて、風俗で働いて、最後の望みを賭けたカジノでも失敗するなんて、これ以上の転落はないんちゃうかって思った。
でも、どこかでほっとしている自分もいた。
これで終わりにできる。
もう、ギャンブルに頼る必要はないんやって。
目の前で失ったチップは、私の人生の終わりじゃない。
むしろ、これが再スタートのきっかけになるかもしれんって、負けた瞬間に思えたんや。
その夜、マカオのネオンが輝く街を歩きながら、自分自身に向き合った。
借金はまだ残ってるし、これからどうやって返していくのか、正直不安や。
でも、一つだけ分かったことがある。
どれだけ落ち込んでも、また立ち上がることができるって。
ギャンブルに逃げるのはもうやめる。
これ以上、自分を傷つけるのはやめよう。
そして、何があっても自分の力で乗り越える覚悟ができた。
その夜の空気は少し冷たかったけど、心の中には少しだけ希望の光が差し込んでいた。
カジノで失敗しても、それが全てじゃない。
人生はまだまだこれからや。
マカオの夜が静かに更けていく中で、私は自分の足でしっかりと地面を踏みしめて歩いていた。