韓国カジノのハイリミットテーブルでマーチンゲール法に賭ける女

マカオのハイリミットルームに足を踏み入れた時、いつものCAとしての自分とは完全に違うスイッチが入るのがわかる。
日常の生活から離れ、刺激を求めて、心から高鳴りを感じられる場所がここなんだって思った。
光の加減とピリッとした空気、周りの人たちがひそひそ話す声や笑い声が混ざり合って、独特な雰囲気を醸し出している。
まるで映画のワンシーンの中にいるみたいで、ここにいるだけで少し非日常に足を踏み入れた気分になれる。
それが癖になって、気づけば韓国のカジノに通うようになっていた。

ルーレットプレイヤーのプロフィール

韓国といっても、私は仕事で行くことが多いから、自分の中では「ちょっとリラックス」くらいの感覚。
仕事の緊張感を忘れるため、そして、運を試すため。
そんな私が今日選んだのは、少しリスクの高いハイリミットテーブルのルーレットだ。
普段は少額から始めるんだけど、今日は気持ちを切り替えて、一発で勝負を決めたいと思っていた。

赤黒の「黒」。
それが、私の選んだ賭けだった。

ベット位置

理由は特にないけれど、最初から何度も「黒」に呼ばれているような気がして、そのまま流れに任せた。
それに加えて、今日はマーチンゲール法で絶対勝つという確信があった。
最初は10万円、そして負けたら倍、さらに倍と賭けていけば、いつかは必ず取り戻せる。
それがマーチンゲールの理論だって聞いていたし、実際に何度か小さな勝ちを得た経験もある。

テーブルに着くと、ディーラーがゆっくりと目を合わせて微笑んできた。
周りには、同じようにハイリスクを楽しんでいるプレイヤーたちがいて、それぞれの策略や賭けに集中しているのが伝わってくる。
ルーレットの回る音、ウィールが鳴るあの独特のカラカラという音が響くたびに、期待と不安が渦巻いて、全身が研ぎ澄まされていく感覚がした。

最初の10万円を黒に賭けるとき、心の中で「これが運命の始まり」と感じた。
ディーラーが手慣れた手つきでボールをウィールに放つと、しばらく不規則に跳ねながら回転し、やがてスローモーションのようにゆっくりとした動きに変わっていった。
ボールが揺れながら、どこに落ち着くのかが見えそうで見えない。
心臓がドキドキと早鐘のように響いて、思わず息を飲んだ。

結果は「赤」。
最初の賭けは、あっさりと負けてしまった。

けれど、この時は焦りはなかった。
これがマーチンゲールの強みで、次に倍額を賭ければいいだけ。
そうして、取り戻せるまで続ければ、必ず勝つことができる。
私は次の20万円を黒に賭けて、同じように期待を胸に抱えた。
ディーラーがボールを放り、再びウィールが回転を始めた。

次の瞬間、再び「赤」にボールが止まった。
あれ?と思いながらも、まだ大丈夫。
次の倍額を賭けることで、損失を取り戻せるのだから。
自分にそう言い聞かせ、40万円を手に、再び黒にチップを置いた。
周りの観客たちも私に少し興味を持ち始めたようで、ちらりと視線を感じる。
だが、この時の私には勝負だけしか目に入っていなかった。

次の賭けも・・・「赤」。
3連敗。
やっと少し不安がよぎり始める。
でもここで引くわけにはいかない。
勝負は最後まで続けるしかない。
次の倍額である80万円を再び黒に賭け、神経が張り詰めているのを感じながら、ウィールが回り始めるのを見つめていた。

このとき、初めて頭の片隅で「もし次も負けたらどうしよう」という声が聞こえた。
おそらく、この金額に慣れていないプレッシャーが影響しているのかもしれない。
でも、信じるしかなかった。
マーチンゲールで成功するまで続ける──そう決めたのだから。
周囲のざわめきやディーラーの手元すら目に入らないまま、ただただルーレットの動きに引き込まれた。

回転するウィール

そして、再びボールは「赤」に落ちた。

その瞬間、思考が一瞬、止まってしまった。
賭け金は合計で150万円に達し、次に賭けるためには160万円が必要だった。
でも、私の手元に残ったのはたったの20万円。

唖然とした気持ちでチップを見つめ、心の中が真っ白になった。
4回目で止まらず、次の倍額に踏み切るべきだったのかと頭をよぎるけれど、そう思った時にはもう遅すぎる。
5回目で全てが崩れ去っていた。
破産という言葉が、現実のものとなって目の前に迫ってきた。
周りの観客たちがちらりとこちらを見ているのが分かり、あまりに恥ずかしくて、その場を立ち去りたくなった。

賭けの終わったテーブルには何も残らず、まるで映画のワンシーンが終わった後みたいな虚しさが胸に押し寄せた。
ハイリミットルームの静寂の中で、私だけがぽつんと取り残されたような気持ちだった。