カジノって、なんとなくテレビとか映画の中だけの世界だと思ってた。
私の周りでギャンブルやる人なんてほとんどいないし、そんな遠い場所のことだと思ってたんだよね。
でも、あの時、友達に誘われて初めて行ったアミューズメントカジノが全ての始まりだった。
最初は「遊びだから」とか「本物のお金じゃないし」と軽い気持ちで、みんなでワイワイ騒ぎながらルーレットを回してた。
ディーラーさんが「赤か黒、どっちにする?」なんて聞いてきて、みんな笑いながら「赤!」とか「黒!」って叫んでたのを今でも覚えてる。
その時は、単純にゲームとして楽しんでたんだけど、勝つ快感がやっぱり気持ちよくて、「本物のカジノでこれやったらどうなるんだろう?」って思い始めちゃった。
誰かが「ラスベガス行ってみたいねー!」なんて言い出して、そこからみんなで計画して、ついに実現しちゃったのが今回のラスベガス旅行だった。
正直、ラスベガスのカジノって夢みたいな場所だった。
キラキラしたネオン、あちこちに並ぶスロットマシン、大きなテーブルに群がる人たち。
あの空気感は、何とも言えないものがあった。
まるで別世界に迷い込んだみたい。
なんていうか、現実離れしてて、ここなら何でもできる気がしちゃう。
勝つか負けるかなんて考えないで、ただ楽しんでればいいんじゃないかって。
だけど、私には計画があったの。
アミューズメントカジノで覚えたルーレットだけじゃなくて、実はその後、少し勉強して「マーチンゲール法」っていう賭け方を知ってたんだ。
最初は少額で賭けて、負けたら次に倍賭けして、また負けたらその倍を賭ける。
そうやって、いつか勝った時にそれまでの負けを全部取り返せるっていう方法。
理屈は簡単だし、私もすっかりその考えにハマって、「これなら大丈夫!」って自信を持ってた。
でも、やっぱり本物のカジノに足を踏み入れると緊張感が全然違った。
テーブルに座ってチップを手に持った瞬間、なんか手が震えてた。
自分でもびっくりするくらい。
最初は100ドルくらいを賭けようと思ってたけど、いざルーレットの前に立つと、その金額が一気に重く感じられてきて・・・。
でも「大丈夫、マーチンゲール法なら絶対に勝てる」って、自分に言い聞かせてスタートしたんだ。
「まずは黒に100ドル賭けよう」と、最初のチップをテーブルに置いた時、周りは何事もないかのように動いていた。
隣で賭けている外国人カップルは楽しそうに笑いながら話してるし、ディーラーも淡々とウィールを回していた。
その回転音が耳に響いて、心臓がドキドキしてるのが自分でもわかった。
ボールが回り始めて、ウィールの上をカラカラと音を立てながら跳ねている。
みんなの目がボールに集中して、その瞬間、私も呼吸を止めていたかもしれない。
そして、ボールが徐々に速度を落としながら、黒のエリアを通り過ぎて・・・赤に止まった。
「最初は負けても仕方ない、次は倍にして取り返せばいい」って自分に言い聞かせた。
100ドルを失ったけど、次は200ドル賭ければいいだけ。
それで今までの分も取り返せる。
次は「赤」に賭けた。
さっき赤が出たから、今度は逆の赤に賭けるのがいいだろうって、単純に思ったんだ。
そして、ディーラーが再びボールを回す。
ボールが回る音が、なんだかさっきよりも重たく感じる。
頭の中では「今度は勝てる、絶対に勝てる」って繰り返してる自分がいて、でも心の奥では「もしまた負けたらどうしよう・・・。」って不安も少しずつ膨らんでいた。
結果はまた赤ではなく、黒に止まった。
もう手汗がひどくて、震えが止まらなかった。
でも、ここでやめたら全部無駄になる。
次に賭ける金額は400ドル。
これで勝てば、今までの負けは全部チャラになる。
そう自分に言い聞かせて、なんとか冷静さを保とうとした。
今度こそはと思って、再び「赤」に賭けた。
400ドル、私にとっては大金だ。
それをテーブルに置いた瞬間、自分の指先が震えているのが分かった。
ディーラーは何事もない顔でルーレットを回し、ボールがまた同じようにカラカラと音を立てながらウィールを駆け抜けていく。
みんなが静かになって、ただボールがどこに落ちるかを見守っていた。
自分の鼓動が耳元で響いていて、頭の中は「頼む、今度こそ赤に!」ってそれだけでいっぱいだった。
でも、ボールはまたもや黒に落ちた。
心がバラバラになりそうだった。
もう持ち金は残りわずか。
次は800ドルかけなきゃいけない。
それで勝てば取り返せるけど、負けたら・・・。
その時、現実が急に重くのしかかってきた。
残りの持ち金を全部、800ドル分テーブルに置いた。
ここで勝たなければ、全てが終わる。
今までの負けを取り返すために、最後の賭けに出た。
周りの人たちは私がこんなに必死だとは思っていないだろうけど、私にとってはまさに命をかけた瞬間だった。
ディーラーが再びボールを投げ入れて、またルーレットが回り始めた。
これが最後だ、と思ったら目の前がぐらぐらする。
ボールが少しずつ減速して、どのエリアに落ちるかが見えてきた瞬間、祈ることしかできなかった。
でも、結果はまたも黒。
すべてが終わった。
呆然としたまま、テーブルを見つめる私に、周りの人は興味なさそうに次の賭けをしていた。
泣きたくても涙が出なかった。
持ち金が一瞬で消えた現実を、どうやって受け止めていいのか分からなかった。
カジノのキラキラした雰囲気は、もう私には関係ない場所のように思えた。
夢のようなラスベガスの街並みが、どこか遠くに感じた。
勝つことばかり考えていた私が、こんなにも簡単に負けるなんて。
マーチンゲール法なんて、ただの幻想だった。
外に出ると、冷たい夜風が私を現実に引き戻した。
持ち金を全て失った私は、今からどうすればいいんだろう?
でも、それでもまだどこかで「次こそ勝てるかもしれない」と思っている自分がいる。